情報収集・分析で虚実の駆け引きに長ずれば、容易に撃破することができる

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　●企業システム戦略孫子の兵法　兵勢篇その４
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「兵の加うる所、段を以て卵に投ずるが如き者は、虚実、是なり。」

　戦いにおいて、石を卵にぶつけるように簡単に撃砕できる者は、充実した自軍で敵の虚をつく駆け引きが、そうさせるのである。

　相手の虚を、こちらは実を持って撃つので、まるで、石に卵をぶつけるように簡単に撃砕できるということです。

　「虚」とは、スキのことです。相手のふとした「スキ」をつく。

　しかし、なかなか相手も簡単にはスキを見せません。そこで宮本武蔵は、相手の虚をつくための具体的な方法論を『五輪書　火之巻』の中で伝授しています。

　例えば、おびやかす、むかつかする、うつらかすなどです。むかつかすとは、危険なこと、無理なこと、予期せぬことを相手に仕掛けて、心を動揺させることです。

　平常心を失い、心が動揺すると「スキ」が生まれ、虚が生じます。

そのような状態のとき、相手は無防備ですから、そこを突けば、簡単に撃砕できるでしょう。

ところで、情報システムの構築では、逆に「虚」をつかれて失敗するケースが多いようです。

高額の生産スケジューラを導入して、正確な日程計画が瞬時にでき、生産変動に対しても柔軟に対応できると思っていたら、スケジューリング計算に使用する基礎データの精度が悪くて使い物にならなかった。

それどころか、現場の実態とかけ離れたコンピュータの誤った日程計画で、生産混乱を引き起こすなど。

　あるいは、要求事項をなんども確認して了解をもらってからシステムを開発したのに、実際に運用をはじめたとたんに、あれもこれもと追加や変更が多発する。

　結局、要求事項の隙間（虚）に気がつかなかったわけです。

　情報システムにしても、企業システムにしても、システムの様々な構成要素が、相互に影響しあってアウトプットを出します。

　その構成要素間の”つなぎ”（インターフェース）には、さまざまな隙間が存在し、ムダを生じています。特にサプライチェーンなど、多くの組織が連鎖するようなシステムでは、その隙間も大きくなりがちです。

　隙間が大きく滞留が発生すると、供給連鎖がいとも簡単に切れてしまいます。

　この”つなぎ”に潜む隙間「虚」を取り除いていくことがムダをとり、システムを最適化していくことになります。

　また、コンピュータによる生産指示を「虚」として排除し、実在庫に従って後補充することで、価値の流れをつくりムダを排除するシステムが「かんばん方式」です。

　また、標準化やモジュール化で、共通率・再利用率を上げ、ゼロから開発せずに、新しいニーズに応えていくのも組み合わせの虚実の妙でしょう。

　例えば、消しゴムつきエンピツやＳＯＡなどです。

　物事を効率よくスムーズに運ぶには、「虚」をつけばよいというのは、なんだか、ずるい・卑怯　と感じるのが日本人です。

　しかし、これが孫子の戦わずして勝つという”哲学”なのです。戦い方の美学よりも、”勝つことに徹する”という点で武蔵の哲学に通じるものを感じます。

　戦いの美学（技術）に酔うのでなく、冷徹に勝ちに拘ることが経営や企業システム戦略には必要なのです。

　そのためには情報収集・分析をして、市場・競合・自社の「虚」「実」を見分け、虚実の駆け引きに長じなければなりませんね。そのような中からスキを突いた「ニッチ戦略」などが生まれます。