◆投資対効果を多面的にバランス良く評価する指標は?

企業システム戦略

◆売上げや利益だけが評価ではない
 システムの成果を正確に測定する事は困難であると書いた。こう考えると、とりあえず実用化されれば、それで十分ではないかと思いたくなる。しかしながら、昨今の景況から設備投資が難しくなると、売上げ増など利益貢献することが確実である場合以外は、システムに投資しないというように、システム投資に対しても消極的にならざるをえない。しかし、それでは会社の成長が止まってしまう。システム構築は、専用設備を導入するのとは違い、会社の基盤としてすべきものである。

したがって、単に財務的な成果だけを評価指標としたのでは、判断を誤る恐れがある。確かにシステムは、その 効果が直接的に収益に反映されるものではないが、長期的に影響が表れ、気が付いたときには、すでに手遅れとなっていることも考えられる。したがって、バランススコアカードなどを利用し、多面的、かつ長期的に評価を加える必要がある。

 バランススコアカードでは、財務的視点の他に、社内プロセス、学習と成長、顧客の視点で評価する。例えば、業務プロセス改革とシステム構築を並行して実施した場合は、システムの実用開始に合わせて、新業務プロセスに習熟するのには時間が掛かる。したがって、単にシステムによる成果よりも、業務プロセス改革との相乗効果で徐々に成果が表れてくる。それが、将来のビジョンに向かっての確実な歩みであるなら、すぐに財務的に成果が出なくても一定の評価を与えるべきである。

 同様なことが、学習と成長や顧客の視点からの評価にも言える。学習と成長の視点から、eラーニングシステムを構築したとしても、その成果は、社員教育の効率化という面だけでなく、長期的には社員の成長が、企業の成長につながるといった評価ができる。顧客の視点から、顧客関係経営システムを構築した場合も、単に顧客情報の効率的な管理や顧客対応の迅速な対応といった成果だけに止まらず、顧客満足の向上による市場での地位確立といった評価ができる。

 ただし、財務面以外の評価であっても継続的に成果を評価していくためには、定性的な指標だけでなく、定量的な指標が必要である。例えば、学習と成長の視点では、資格取得者数やアイデア提案数などを測定し、評価することも考えられる。あるいは、顧客の視点であれば、顧客満足を測定する指標として、リピートオーダの回数や、クレーム対応時間などが考えられる。

 このような評価を、システム稼動後に半年、あるいは1年毎に継続して行う必要がある。継続的に評価をしていかないと、知らない間に使われなくなり埃をかぶってしまう不良資産システムが出てくる。継続的に評価を行っていれば、そのようなシステムを早期に発見することができる。成果が出なくなっているのは何故か、改善すれば、まだ成果をあげる事ができるのか、あるいは、環境の変化などによって不要の長物になってしまったのか。もし、不要ならば廃却して、ムダなシステム運用・保守費用を削減し、別のシステム構築に投資することができる。さらには、単にユーザ教育定着化が不十分で、活用していないような場合には、その部署に対するシステム投資を差し控える、あるいは、情報リテラシの向上を図るなどが考えられる。

 最近では、専門的にIT投資対効果の評価を行うサービスも提供されているので、それらを利用するのも良い。ただし、その場合も、どのような指標を用いるのかは、自社の経営方針やビジョンに照らして主体的に参画することが重要である。同じ100万円の車でも、それぞれの生活信条によって、その価値や評価は異なるのと同じ。業者任せにしたのでは、費用を掛けて専門家に評価してもらったのに、どうもしっくりこない、ピントがずれているというような結果になってしまっては残念である。 

■目次:システム開発する前に知っておくべきこと83項目

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