◆情報処理の基本は5W2H
5W2Hとは、Who、When、Where、What、Why、How,How Muchのことである。システムに対する要件は、これで全て記述することができる。何故なら、「ITの本質」で述べたように、情報処理は「読み・書き・そろばん」だからである。小学校で、作文を書くときには5W1Hを明確にするように教えられた。それに、コスト意識として、HowMuchを加えたものだ。
ビジョンを達成するための業務プロセスを5W2Hで整理して、それを、図式化したものが、データフロー図や業務モデルと呼ばれている。まず、現状の業務プロセスを図式化してみる。この図式化することが重要で、ビジョンとの整合性確認や、以降の作業において、常にメンバが参照し、議論することができる。次に、ビジョンを達成するために、どのように業務プロセスを変えていくのか、どの業務プロセスをITで支援していくのかを検討する。検討の視点は、やはり5W2Hである。Whoを変えてみるとどなるか。
例えば、材料の購買を、現状の購買担当者から、設計者に替えることで戦略的な購買業務を実施し、製品コストを削減するというような具合だ。そうすると、設計者が購買を行うには、どんな情報が必要になるかを考える。その情報の質・量・タイミングを検討した結果、ITを利用したほうが有効であると考えられる場合、それがシステムに対する要件となる。
業務プロセスを変えないとしても、Howを変えてみると言う場合もある。その業務で扱う情報の量が多い場合、そこにITを利用してスピードアップする。それが、「ビジョン」を達成する方法であるなら、それでもかまわない。Howを変えることにより、Whenを変えるのである。情報の量が膨大で、「読み・そろばん」に時間がかかり、「書く」が、翌日とか半日後とかの現状が、即時にスピードアップすれば、それが顧客満足、競争力強化に繋がることもある。
システムの要件として業務プロセスを5W2Hで整理して、新業務プロセスを5W2Hからの観点で創出する。そのプロセス(読み・書き・そろばん)の中で、ITを利用して、時間・空間の制約を排除できる部分があれば、それをシステム要件として定義する。この作業には、ITに関する専門知識も、専門用語も必要ない。必要なのは、ビジョンの実現に向けて、「読み・書き・そろばん」を5W2Hで整理して、どの部分にITを利用するかという、人間本来の情報処理に対する知恵だけである。決して、xxxシステムで、電子化したいとか、自働化したいとか、データベースを一元化したいとか、リアルタイム共有したいとか、統合化したいとかではない。
以下は、要件定義に必要な業務プロセスの具体的な5W2H整理方法である。
・活動の全体概要
(1)計画段階・・・・疑問点を整理して、調査の対象・目的・範囲・方法・期間等
を決定する。
(2)事前調査段階・・身近にある資料、及び身近な人等から情報収集し自習する。
(3)調査準備段階・・現地調査に使用する質問表の作成、調査日程の調整等をし、
被調査部門の了解と協力を得る。
(4)現地調査段階・・現地へ出向き、ユーザに説明を受け、実物を見たり、実作業
を体験したり、質問をしたりする。
(5)まとめ段階・・・調査で得たことを整理し、図式化してまとめる。
・計画段階の進め方
計画段階で最も重要なことは、自分が知っていること、知らないことを整理し、『何が知りたいか』を明確にすることである。その上で、調査の対象・目的・範囲・方法・期間等を決定して行く。 この段階での決定が適切であるか否かで調査の有効性が大きく左右される。従って、独断で進めず、実務キーマンや関係者、ユーザと良く相談の上で進めること。
(1)調査対象の決定
自分が知りたい業務によって、その業務を実施している部門を調査対象部門と
し、その業務を調査対象業務とする。
(2)調査の目的の明確化
これは、『知りたいこと』が業務の流れであるか、処理方法であるか、又は、
比較をしたいのか等を明確にし、『・・・業務の・・・の流れが知りたい。』
という具合に文章にしてみる。
この段階で明確に定義できないと、説明者に自分の調査の意図が伝わらず、延
々と説明されたが、知りたいことはなにも分らなかったという『ありがちな』
結果を招くことになる。十分かつ慎重に行わなければならない。
(3)調査範囲の決定
調査の目的が明確になれば、必然的に決定される。例えば、注文書の発行処理
が知りたいのであれば範囲は狭いものになるだろうし、設計変更の流れが知り
たいのであれば設計・工作・資材が対象範囲である
要は、狭く深く調べるか、広く浅く調べるか目的によって変わってくる。
(4)調査方法・期間の決定
方法と期間は合わせて考える必要がある。例えば、一連の業務を『体験する』
という方法を中心とするなら、最低一週間は必要であろう。また、『インタビ
ュー』という方法を中心とするなら、半日程度でよいかもしれない。又、他工
場・他事業所が調査対象であるなら、毎週水曜日に4回というように断続した
期間も考えられる。いずれにしろ、(1)~(3)までをしっかり決めること
ができれば、自分に合った方法と期間が、おのずと見えてくるので、決定はそ
れほど難しくないはずである。
・事前調査段階の進め方
事前調査段階では、身近な資料や、身近な人からの情報収集を行い、それを自分なりに整理する。
(1)情報収集
ここで物を言うのは行動力である。『知りたい』という欲求をエネルギーとし、手の届く範囲の情報源は何でも調べるという貪欲さが必要である。
ここでどれだけ、情報収集できるかによって現地調査が表面的なものになるか、実のあるものになるかが、大きく左右される。
身近な情報源には、次のようなものがある。
・業務標準類
・システム概要説明資料
・システム仕様書
・業務マニュアル
・プログラム
・市販の生産管理について書かれた本
・日経コンピュータ等の雑誌
*少し話がそれるが、このように大量の情報収集を文書から素早く取込み、
取捨選択して大筋を掴むためには『速読』の技術があると便利なので興味
のある人は、市販本があるので読んでみるとよい。
(2)情報整理・考察
次に、収集した情報を整理し、自分なりに考えてみる。ここでは、『なぜ、
どうして』と深く掘り下げて行く根気が必要である。ふだんから、早合点
をしないような訓練が必要である。情報整理・考察の基本は5 W 2 H
である。ある業務用語(それは『物』かもしれないし、『処理』かもしれ
ない)に対して、
・いつ( W h e n )
・どこで( W h e r e )
・誰が( W h o ) 、誰に( W h o m )
・何を( W h a t )
・なぜ( W h y )
・どのように( H o w )
・いくら( H o w m u c h )
オプション
・何回( H o w m a n y t i m e )
・何時間( H o w l o n g )
・何人( H o w m a n y p e o p l e )
・・・以下、自分なりのオプションを考えよ。
と具体的なイメージを作り上げていく。『物』であるなら、そのもののイメ
ージ、『処理』であるなら、その処理を誰か(又は自分)が、実際にやって
いるところをイメージする。
ここで、具体的なイメージが湧かないようなら、まだ十分それについて
理解していないと認識しておく。
特に、情報伝達媒体(帳票類が主)には注意を要する。その、発生源、発信
源、受信先それぞれに対して、5W2Hを考えてみること。
例えば、『作業指示書』の発生源については
・いつ(When)・・・・・・・・・製作まえに
・どこで(Where)・・・・・・・生産技術部門で
・誰が(Who)、誰に(Whom)・生産技術者が、現場の作業者に
・何を(What)・・・・・・・・・製作手順等を
(実際は、全項目を調査する。)
・なぜ(Why)・・・・・・・・・・指示するために
・どのように(How)・・・・・・・オンライン作業手順書システム
を使って
・いくらで(How much)・・・1件あたり、10時間、xx万円で
作成する。
といった具合に、以下、発信源(設計部門)、受信先(現場)についても考
える。このように『作業指示書』という、たった一言からでも多くの業務知
識が得られる。今まで、どれくらいの業務用語を安易に聞き流し、見逃して
来たことであろうか。以上の作業が完了したら、流れ図等を使用して『業務
フロー』を図式化する。流れ図の書き方は、多くの解説書があるので、そち
らを参考にされたい。
・調査準備段階の進め方
調査準備段階では、事前調査での疑問点、確認事項を質問表等にまとめて、現地調査を効率良く進める為の事務的な準備をする。並行して、現地調査の依頼をユーザ担当者へ打診しスケジュールを事前調整する。
(1)質問表の作成
疑問点、確認事項に対する質問は、業務の流れに沿って並べる。基本的な考
え方は、トップダウン法に従って、全体から細部へと掘り下げて行く。この
時、事前調査段階で『業務フロー』が書いてあると楽である。
質問文は先の5W2Hに従って、その内の、どこを聞きたいかを2~3に絞
る。一つの質問文で5W2H全てを聞こうとすると、質問の焦点がぼけて、
相手もどう答えてよいか分らない、自分も肝心なところが聞けないという
『ありがちな』結果を招くので注意する。
(2)現地調査の依頼、スケジュールの調整
まず、開発メンバとして参加している、対象業務の実務キーマンが窓口とな
り、現場にコンタクトして、調査活動の主旨、目的を話す。
相手に十分理解してもらえるまで、じっくり話し、協力を要請する。ここで
誤解が発生すれば、いままでの苦労が水泡と帰すので注意する。また、せっ
かく相手が準備してくれたことが、無駄になっては双方にとって不幸であり、失礼である。 電話で難しいならば、出向いて説明することも考える。
調査期間・日時等、自分の希望を伝え、相手の都合を聞き調整する。いずれ
にしても『相手の仕事の時間を割いていただく』ということを、忘れないこ
と。最後に、『正式にはスケジュール、質問表等を職制を通じて依頼するの
で、宜しくお願いします。』と言っておく。
(3)調査依頼の作成
調整の結果を、正式文書にて送付する。
・現地調査段階の進め方
ここまでの準備が万全であれば、この段階では、実際の物を見たり、話しを聞いたり、作業を体験したりするのに特別な注意事項はなにも無い。あえて挙げるなら、説明してもらったら最低1 ~ 2 は質問するのが、相手への礼儀である。最初から、最後まで貝のように口を閉ざしていては、いけない。もう一度言うが、『相手の仕事の時間を割いていただく』ということを、忘れないこと。くれぐれも、次回(又は次の人)の調査の為にも『なんだ、やっても仕方無い。』と思われないよう積極的に取り組むこと。質問は事前調査と同様に、5W2Hに照らし合わせて考えれば、ひとつや、ふたつは必ず出てくるものだ。 万一、準備不足で調査の主旨、目的が正しく伝わっていないようなら、まず、そこから話しを始めること。最後に、『成果・感想・お礼・今後の協力依頼』を述べ、『追って報告書を送付します。』と言っておくこと。遠隔地のユーザや、初めて会うユーザとの良いコミュニケーションを確立するチャンスでもあり、日常業務がやり安くなるので留意すること。
・まとめの進め方
ここでは、事前調査では判明しなかった部分を、現地調査で知り得たことで埋めて行き、全体のまとめをおこなう。以下のような作業をすることで、得た知識を整理し『今回の調査で分ったこと、分からなかったこと。』について考えてみる。
・事前調査で作成した『業務フロー』を完成させる。又は、ここで新規に作成する。
・新たな疑問点、時間切れで仕残した調査項目等を整理して次回のネタとする。
・業務用語集を作成する。
・帳票類のサンプル集を作成する。
・各段階での進め方・準備作業等で良かったこと悪かったことを振り返り整理する。
最後に、業務プロセスを開発メンバ全員でレビューする。
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