◆ビジョンへと導く方法論
ビジョンも明確になり、それを愛称でもって関係者にも周知を図った。これで、あとは目的に向かって突っ走るだけだ。こういきたいところだが、ことはそう単純ではない。現代の複雑で、スピードの速い経営環境では、ビジョンが明確になったとしても、そこへどうやって到達すれば良いのかが分からない。かつての、情報処理(読み・書き・そろばん)であれば、実際に手作業でやっていることを、コンピュータにやらせればよかったので、その方法は、手作業でやっていた実務者が一番良く知っていた。
ところが、最近は、ビジョンを達成するためには、いままでやったことのない新しい仕事のやり方を想定して、それに必要な情報処理(読み・書き・そろばん)を考えなければならない。したがって、新しい仕事のやり方とは、どんなものかといったところから考えなければならない。その為には、いくら現状の仕事を調査・分析してみても、それだけでは難しい。ビジョンを達成するための新しい仕事のやり方を設計するために、その根幹となる考え方として、何らかの方法論が必要になる。
それが、TOC(制約理論)とか、SCM(供給連鎖経営)とか、CRM(顧客関係経営)とか言ったものである。最近では、これらの方法論は、アメリカから3文字略語として輸入されてきたものが多く、著者もあまり好きではないが、もはや、こういった方法論無しに、現場の改善だけで競争を勝ち抜けるほど甘くは無いのである。この3文字略語は、IT業者が、自社の製品を売り込む時に、その必要性や利点を説くときによく使用する。
しかし、これは、本来はITツールとは直接関係の無い、仕事のやり方に関する方法論や哲学なのである。中には、ナレッジマネジメントなどのように、よく効けば「三人寄れば文殊の知恵」のように日本にも古くからある、知識共有によるコラボレーションの考え方と同じものもあるし、「かんばん方式」に代表されるトヨタ生産方式などのように日本純正の古くて新しい経営手法もある。くれぐれも、惑わされないようにしたい。
「ITの本質」で述べたように、ITが直接、これらの経営手法を実現できるわけでなく、あくまで、これら経営手法に必要な情報の「読み・書き・そろばん」を代行するだけのものである。3文字略語に釣られて、高価なITツールを導入するまえに、これらの方法論が、本当に自社のビジョン達成に有効であるかどうかを考えるべきである。その上で、その方法論を効率良く実践するためには、いつ、どこで、どんな情報が、どのくらい必要なのかを考え、それにあった必要最小限のITを導入すればよい。
場合によっては、高価なITツールを導入せずとも、ビジョンを達成する道が見えることもある。情報の量・タイミングが、手作業でも充分対処できるような規模であり、それで方法論を実践し、ビジョンを達成できるのであれば、それが、最小の投資で最大の効果を生むことになる。あるいは、重点的にポイントを絞って、必要なシステムを構築すれば、自社に必要のない多くの機能を持つ、高額な市販パッケージソフトを購入する必要も無い。手でやれるところは、手でやれば良いのである。それが、自社のコアでないなら、なおさら投資までして強化することは無い。
このあたりを踏まえて、「最小の投資で最大の効果を生むシステム戦略」を読み返してもらうと良い。そして、メンバ全員で、自社に必要な方法論を検討し、充分理解しておく必要がある。そうすることで、新業務設計、要件定義や、ITツール及び業者の選択にあたり、その指針となるのである。方法論は、最小の投資で、最大の効果を生むシステムを構築し、ビジョンを確実に、早く達成するための道案内役となってくれる。
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