◆それで、いくら儲かるか
システムが備えておかなければならない「要件」とは、いったい何であるかを考える時の基本は、「それで、いくら儲かるか」である。ここでいう「儲かる」というのは、直接的に利益を生む出すだけでなく、利益に繋げるための要件も含まれる。前述のITバランススコアカードでは、顧客の視点、社内プロセスの視点、学習と成長の視点を財務的視点に関連つけて多面的に評価するのは、前述のとうり。例えば、顧客情報に対する「読み・書き・そろばん」を高度化することによって、顧客満足が向上し、その結果として既存顧客の維持を確実に行い、売上確保や利益率向上に結びつけるといった具合である。
この時、「読み・書き・そろばん」を高度化することが、前面に出てしまっては解決問題となってしまい、CRM(顧客関係経営)ツール業者の思うがままである。この場合の「要件」を導出するには、既存顧客を維持するには、どのように顧客情報を活用すれば良いのか、その活用には、誰が、いつ、どこで、どんな量・質の情報を必要とするのかという具合に、目的指向により、5W2Hを整理していく。このようにして導出した要件が、確実に儲けに繋げるためのシステムに必要な要件であり、目的達成(儲け)につながらない、ムダな要件を排除した、必要最小限の「要件」となる。
ところで、システムというのは、一般的には「系」のことであり、これには、人間系と機械系がある。システムに対する「要件」とは、機械系に対する要件だけでなく、人間系に対する「要件」もいっしょに、整理しておくべきである。なぜなら情報を活用して「儲け」に繋げるのは、最後は人間だからである。人間不在の情報処理はありえない。どんなに立派な顧客情報管理システムに対する要件を決めても、その顧客情報管理システムを使い「読み・書き・そろばん」を行うのは人間である。
「儲かるシステム」の要件は、人間が「儲ける」ために、機械系を利用し、得た情報から、どういった行動をとるのかを想定した、相互作用を規定したものである。従って、人間系に対する要件も決めておかないと、機械系側も、有効に働かない。運用段階で、想定した効果が生まれない場合、この人間系と機械系の間で、要件の衝突や不整合が発生して いる場合が多い。
そして、人間系に対する要件は、システム運営マニュアルや業務規定として明文化し、確実に実行されるようにすることで、システム全体として機械系との相乗効果で、最大の効果を生むことができる。つまり「儲かるシステム」というのは、機械系としてのITに対する要件だけでは、絶対に達成できない。それを利用する人間系も含めた、組織体全体の系として、儲けに繋げるための「要件」を決めなければならない。
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