◆ビッグバン/順次拡大のメリット・デメリットは?

企業システム戦略

◆ビッグバンか、順次拡大か
 展開戦略において、大きくは2つの選択肢がある。全社的かつ、全業務プロセスを対象に一気にシステムの実用展開を図る「ビッグバン」方式と、限定的に実用化を図り、定着化の度合いを見計らって、その適用範囲を順次に拡大していく方式である。どちらにしても一長一短あるので、状況に合わせて適切な方式を選択する必要がある。

 ビッグバン方式では、新業務プロセスにスッキリと移行でき、成果を一気に獲得できるという利点がある反面、立ち上がりに障害が発生すると、容易には後戻りできないため、大混乱を起こすというリスクがある。ビッグバンを選択するのであれば、段階的に移行することで重複作業が発生するなど非効率である場合に向いている。

 実用開始にあたっては、周到な準備と、十分な事前教育、さらには数回のリハーサルが必要である。また、最悪の事態を考えて、障害が発生した場合に、元に戻すか、そのまま前に進むかの、判断基準などをあらかじめ定めた上で、どちらの場合にも、スムーズに対処できるようにコンテンジェンシプラン代替案を準備しておく必要がある。実用開始直後に発生する可能性のあるリスクの洗い出しと分析を怠ってはならない。

 一方、段階的に実用展開を図る場合は、障害が発生した場合のリスクを最小に抑える事が出来るというメリットがある反面、実用化範囲が拡大するまでに時間がかかり成果が少しずつしか出ない新旧の業務プロセスが混在する事による混乱が発生する、どのような単位で実用化を拡大するのかを考慮しなければならない、などのリスクや考慮事項が発生する。また、新旧並行運用している間、リソースを二重に管理しなければならないというムダなコストも発生する。段階的な実用展開を図る場合は、利用者の情報リテラシなどに配慮し、ビッグバン方式では混乱を生じるリスクが高い場合に選択すると良い。

 実用開始にあたっては、組織単位に拡大するのか、あるいは対象の製品やプロジェクト単位に拡大するのか、いずれにしても新旧で二重作業が発生しないように切り分け、最後まで確実に全面展開できるように計画を立案する必要がある。当然、その間、トップの継続的なバックアップが必要である。例えば、システムに入力するのと、並行して紙による伝票処理も実施しなければならないようでは、システム化によって逆に効率が低下することになる。また、業務プロセスの途中で、システムを使用したり、従来の業務プロセスのままであったりと一貫性に欠けるような場合も非効率である。このような状況では、システムの成果を獲得するどころか、いつのまにか自然消滅して忘れ去られるか、棚上げされてしまう危険性さえある。

 ビッグバンでやるか、順次拡大でいくか、いずれにしても実務者の情報リテラシや組織力により、発生する可能性のあるリスクと、成果獲得までの猶予をバランスさせ、最小のリスクで、最大の成果を得られるような展開戦略を立案しなければならない。特に、ビッグバン方式による失敗は、被害が尊大となり傷が深くなるので注意が必要だ。かといって、意味も無く心配して、順次拡大すれば、いつまで経っても成果を得る事はできない。最後は、トップが腹を決めなければならない。この決断をシステム構築担当者などに任せてしまうと、大抵はリスクの小さい順次拡大路線を選択する。そして、限定的な範囲でのみ実用化され、その後は、一向に水平展開が進まない。そうこうしているうちに、システムの存在や所期の目的さえ、一部の人間しか知らないということになる。多額の投資をしながら、このように会社の片隅でホコリをかぶっているシステムは少なくない。

 著者としては、高度で高機能なシステムを限定的に実用化して順次拡大を図るより、単純かつ、成果の出やすい主要機能に限定した上で、ビッグバン方式で一気に展開するのが理想と考える。そして、習熟度に合わせて、システムの機能を拡張していくのである。これが、先に述べた「守・破・離」の考え方である。最初から、多様な例外処理や便利機能を搭載したシステムを実用展開しても、通常業務で利用されるのは20%の機能である。その20%の主要な機能が、所期成果の80%をたたき出す。逆に、残り80%の機能を苦労して教育・実用展開しても、成果は20%に過ぎない。いわゆる、20:80パレートの法則である。この法則に従えば、最小の労力で、最大の効果を生むことができる。 

■目次:システム開発する前に知っておくべきこと83項目

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